隠された聖杯をめざして・・・ヨルダン・ペトラの遺跡

　１９９１年の正月早々から、バンコク駐在勤務だった私は、湾岸戦争の取材のためヨルダン入りを命じられました。志願して行ったのですがら、志願兵？でしょうか。すでに、バンコクからアンマンへの直行便はなく、ドイツ経由でアンマンに。米英独仏の飛行機しか飛ばないほどの戦況でした。
　２ヶ月に及ぶ戦争取材の任務を果たし、次のグループと交替して、特派員諸氏はそれぞれの任地に戻ることになりました。現地責任者としての私は、戦火をくぐって無事故でバクダッドを往復してくれた"戦友"らの労をねぎらうために、ペトラ遺跡日帰りの旅をプレゼントしたのです。
　だから、今回の訪問は１７年ぶりになります。
　映画「インディ・ジョーンズ／最後の聖戦」に聖杯の隠された遺跡として登場するペトラ遺跡は、アンマンから車で２時間。ペトラとはギリシャ語で「岩」。この遺跡は建てられたのではありません。砂岩を削って彫られた遺跡です。
　ペトラ遺跡の入り口からは、しばらく下り坂が続きます。この先に素晴らしい遺跡があるのか、と危ぶませるほど変哲もない土埃の道。１９９１年の時は、馬に乗って奥へと向かったものです。戦時ですから、観光客はいませんでした。
　やがて、シークと呼ばれる岩の裂け目に挟まれた細道に入ります。両側の崖の高さは１００メートルに達するところも。そのシークを約２キロ進むと・・・。
　裂け目からまるでカーテンが開くように目にする遺跡が、宝物庫『アルハズネ』（写真）です。彫られた遺跡です。薄暗い衝立岩の道を歩いてきたが故に、人々は幕開きの芝居を観るような感激で立ちつくし、珠玉の遺跡にため息をつくのです。実はこれはおもて表紙で、遺跡の全容を見るには１週間はかかるといわれる。
　『アルハズネ』の歴史は紀元前１世紀に遡るといわれます。レタス３世のために建設された墓とか。高さ４０メートル、幅２８メートルで、２層からなり、１階は、両側に小部屋のある大広間に繋がる入り口があります。正面には６本の柱が立ち、両端それぞれ２本の柱は壁に埋め込まれた形をしています。柱の間には、ゼウスの息子の騎手を表す台座に乗った像が彫刻されています。片方は馬に乗って西を向き、もう片方は東を向いて、死者の魂をあの世へ送ろうとして。
　上階の中央の円柱の頂上に乗っている壺の中に財宝が入っていると迷信が広まり、それが『アルハズネ』の名前の由来とされています。
　家内に一度みせようと思って昨年１１月連れてきましたが、帰り道、カーテンコールを楽しむように、私は何回も何回も振り返ってみたものです。

(2009.05.22　シドニー・ボーイ記)